ちっポテチなプライド
期間限定のオレのライバルは、あいつ。
数ヶ月前。
最先端の研究所で鳴り物入りで開発された時、
開発部の人間たちはオレを
「今期の最高傑作」と呼んだ。
焦がしニンニクのマー油と葱油が香る
ザ☆チャーハン味。
間違いなく、
このお菓子コーナーの主役(アイドル枠)は
オレのはずだった。
なのに。
お菓子棚の中央で、
やたら偉そうな顔をして鎮座している奴がいる。
うすしお味。
……チッ。
ぶっちゃけ、
あいつの存在が最初からずっと気に入らねぇ。
何が定番だよ。
あいつは年中人気。
ジャガイモからも人気で
みんな口を揃えて
「うすしおになりたい」と言うんだ。
ポテチになった後も、
365日24時間。
日本全国どこのコンビニに行っても、
一番見やすい特等席を用意されている。
スーパーでも、ドラッグストアでも
やたら大きなカゴに大量に入ってて。
まさにポテトチップス界の王者のような顔してやがる。
ちょっと食べたい時やシェアしたい時に喜ばれる
子袋タイプにもたったりしてさ。
ほんと、ずりぃよなアイツ。
こちとら「売れれば定番化」という
ギャンブル性の高いデスゲームを背負わされて、
期間中必死で背伸びしてるっていうのに。
あいつが生まれたのは何年前だ?
何十年先輩なんだよ。
長年培ってきた
実家のような安心感から醸し出される風格。
『まぁ、いろいろ頑張りなよ若者。
結局最後は俺が選ばれるんだけどね』
そんな無言の圧が、
オレのアルミ袋をピキピキと逆撫でする。
ジャガイモの素材本来の味だけで
勝負してるからって調子に乗るなよ。
オレ様の限定フレーバーに勝てるわけねぇだろ?
そんな風に棚の上で
火花を散らしていた、ある日の深夜二時。
店内に客の気配はない。
蛍光灯だけが静かに光る時間帯。
ひょんなことから、
オレは、うすしお野郎の隣に陳列された。
なんなんだよ。
なんて日だよ。
すると奴が、
意外にも先に口を開いた。
『よぉ、新入りか。頑張れよ』
その一言に、
オレはつい本音を漏らしてしまった。
「……ぶっちゃけさ。
アンタは年中店に陳列されていいよな。
どうせオレなんて数ヶ月したら
消える運命なんだぜ。」
口を尖らせて嫌味たっぷりに言ってやった。
すると、
あの絶対王者うすしお野郎が、
パリッと袋を鳴らして静かに言った。
『お前、キラキラしてて格好いいよ』
『俺なんてさ。何十年もずっと同じ顔。
同じ味。マンネリって言われて、
若い奴らに飽きられるのが本当は毎日怖いんだ』
『お前みたいに、
一瞬で誰かを狂わせる力なんて、俺にはないから』
……待てよ。
アンタ、そんなこと考えてたのか。
あの完璧で隙のない
うすしお兄貴が、まさかの一人反省会を開催していた。
よく見れば、
長年のお客さんを飽きさせないための
泥臭い努力の結晶が、
パッケージの裏側にびっしり刻まれている。
「アンタ……意外といい奴なんだな」
『お前こそ。次のリニューアルで
定番化するといいな』
オレたちは袋の肩を寄せ合い、
ポテトチップス界の未来について熱く語り合った。
お菓子の棚の中で生まれた、
奇妙で、でも確かな友情だった。
その時。
ウィーン。
自動ドアが開いた。
一人の女性が入ってくる。
ルームウェア姿。
目が合った。
間違いない。
あの潤んだ瞳。
深夜の自意識をこじらせて、
濃い刺激を求めている顔だ。
デートなんてないだろ?
欲しいだろ?
ガツンとニンニク香るこのオレ様が。
(来る……!)
(完璧なマニュアルなんていらない。
その荒んだ心を極上に癒やしてやるぜ!!)
オレは胸を張った。
ゴールドの文字を光らせる。
隣のうすしおの兄貴も、
『いけ、お前の時代だ』と目配せをくれた。
女性の手が、ゆっくりと棚へ伸びる。
オレか。
うすしお兄貴か。
さあ、どっちだ――――!!
ゴソッ。
……え?
女性の手は、
オレたちポテトチップスの棚を一ミリも迷わずスルーしたのだ。
そして、
その下の段から
ある商品をひょいと掴み上げる。
じゃがりこ(サラダ味)
「あー、やっぱりこれだよね〜」
「手は汚れないし、食べやすい♫」
そう言いながら、
女性はじゃがりこを次々とカゴに入れていく。
と、その時。
ドンッ!!!!
ガサッ…
えっ
女の腕が棚の端にぶつかり、
隣にいたうすしおの先輩が、重力に引かれて
床へと真っ逆さまに落ちていったのだ。
床に叩きつけられる、鈍い音。
女は、気づいているのか、
気づいていないのか。
そのまま何食わぬ顔で、
じゃがりこの入ったカゴを提げてレジへと消えていった。
チッ
あの、く◯女め...!!!!
「おい!!!! うすしおの兄貴ぃぃぃぃ!!」
オレは棚の上から、
アルミが引きちぎれんばかりに必死に声をかける。
床を見下ろす。
だが、兄貴の返事は聞こえない。
うつ伏せに倒れたパッケージの裏側が、
蛍光灯に虚しく反射しているだけだ。
くそっ。
オレは、なんでただのポテトチップスなんだよ。
動けない。走れない。
隣に並んでいた、たった一袋の、
大事な戦友(ポテチ)すら助けてやることができねぇ。
ポテトチップスとしてのプライド?
限定フレーバーの矜持?
定番商品の風格?
全部、全部ちっポテチだったんだ。
深夜二時のコンビニの棚で、
オレは己の無力さに、ただ静かに
焦がしニンニクの涙を流すことしかできなかった。
美味さより、
「手が汚れなくて食べやすい」
を優先する人間の価値観だけは、
最後まで死ぬほど気に入らねぇけど。
もし、
次に生まれ変われるなら。
ポテトチップスじゃなくて、
コンビニ店員になってやる。
棚から落ちた兄貴を、
真っ先に拾ってやれるから。
だから、待っててくれよな。
うすしお兄貴。
来世では、ちゃんと助けるから。
side うすしお兄貴




うすしおやられたまま終わっててワロタ\( 'ω')/
うすしお・・・ご臨終やんwww
深夜2時のコンビニは、女子のやけ食い酒盛り祭り確定👍👍