ばあちゃんの、かしわめし。
いちばん、温かい味。
今日も、風が教えてくれる。
「あ、かしわめしだ。」
醤油と鶏肉の甘く香ばしい匂い。
ランドセルを放り投げるようにして、私は居間へ走る。
「ばあちゃん!」
「いらっしゃい。」
エプロン姿の祖母の向こう、
台所には大きな炊飯器が鎮座している。
蓋を開ければ、湯気の向こうに
茶色く艶めく世界一のごちそう。
祖母は、私が家へ来る日には必ず、
かしわめしを作って待っていてくれていた。
ある日、
玄関を開けても、あの匂いがしない。
居間へ入ると、
祖母はいつも通り笑っている。
けれど、
台所の炊飯器は冷たく静まり返ったまま。
「今日、かしわめしないと?」
私の声だけが、少し大きく響いた。
「ごめんねぇ。今日は間に合わんかった。」
と祖母は申し訳なさそうに見つめる。
「楽しみにしとったのに、なんで作ってないと?
この前来た時、また作るけんねって言っとたやん」
ずいぶん酷い言葉をぶつけてしまった。
祖母は怒ることもせず、
ただ少しだけ寂しそうに
「ごめんごめん、ちょっと待っとってね」
と台所へ向かう。
けれど、
しばらく経っても台所から物音が聞こえない。
気になって覗いた台所で、
祖母は小さな椅子に腰掛け、
俯いたままじっと動けずにいた。
「ばあちゃん?」
ゆっくり顔を上げた祖母は、
弱々しく、でも隠すように笑った。
「今日はねぇ……腰が痛くてね」
その言葉を聞いた瞬間、
さっきまで責めていた自分の声だけが、
台所に響き続けている気がした。
「なんで言ってくれんかったと?」
「言ったらねぇ…遊びにこんくなるかと思って」
しんと静まる台所。
胸が、ぎゅっと締めつけられた。
「ばあちゃん。今日は私が作るけん教えて」
祖母は目を丸くした。
「できると?」
「できる。教えて」
祖母は椅子に座ったまま、
私の背中から声をかける。
「まず、ごぼう切って」
「人参はもう少し小さくね」
「上手やねぇ」
一生懸命に包丁を握る私の後ろで、
祖母の優しい声だけが響いていた。
トントン、という硬い音。
グツグツとお米が炊ける音。
たまにするじゅわあ、と鶏肉が爆発するような音。
醤油が焦げる、
あの甘くて懐かしい匂いが、
ゆっくりと台所を満たしていく。
あれから、もう十数年も経った。
今でも私は、かしわめしを作る。
ばあちゃんの味にはまだ程遠い。
でもレシピなんて見ない。
もう、手が覚えている。
でも本当は、
覚えているのは材料だとか調味料じゃない。
後ろの椅子から聞こえた、
「そうそう」
「上手やね」
というあの響き。
痛い腰を隠してまで
私の帰りを待ってくれた、あの体温。
かしわめしは、
祖母が私に残してくれた「誰かを想う」という、
一番強くて優しい、愛情そのものだった。
炊飯器から真っ白な湯気が立ち上るたび、
私は今でも、あの日の台所へ帰っている。
ばあちゃんの、かしわめし。
私の人生で、一番あたたかい味だ。


かしわめしかぁ、いいね!
ばあちゃんとの思い出もね。
ばあちゃんとの思い出で、おれも書いてみよう。
ほっこり💕
かしわめし。
食べたーい🐽