僕はいつも平等だ。
右へ。
左へ。
右へ。
左へ。
誰かだけを特別に涼しくすることはない。
この家に来てから、ずっとそうしてきた。
ある夜は、夫婦喧嘩。
おかんは腕を組み、
おとんは黙ってテレビを見ている。
部屋には重たい空気が流れていた。
でも僕は、
いつも通り右へ、左へ。
どちらにも同じ風を送った。
足元では、柴犬のタロウが、
「お前、落ち着きないな。」
そんな顔で僕を見上げていた。
しばらくして、
この家にお兄ちゃんが生まれた。
小さな寝息に合わせるように、
僕は静かに首を振る。
気持ちよさそうに眠る姿を見ながら、
変わらず風を送った。
ある日、
お兄ちゃんが僕の柵に指を入れようとして、
おかんに慌てて止められた。
泣きそうな顔をしながら、僕を見つめていた。
またある日は、
僕に向かって声を出すと、
「ワレワレハ、ウチュウジンダ。」
そんな変な声になることを覚えて、
何度も笑っていた。
そして、いつの間にか、
ランドセルを背負うようになった。
夏休みの宿題を広げながら、
「あつーい。」
そう言って、僕の前を独り占めする。
その隣では、
タロウもちゃっかり風に当たっている。
そして、お兄ちゃんには妹が生まれた。
家の中に、
泣き声が一つ増え、
笑い声も一つ増えた。
僕は今日も、
右へ。
左へ。
右へ。
左へ。
誰に対しても平等に風を送る。
今年の夏。
おとんが僕を見ながら言った。
「こいつ、結構動いてくれてるよな。」
「長いことありがとな。」
そう言って、僕の首振りを止めた。
そして、
じっと自分だけに風が当たるように向きを変えた。
今日は平等じゃない。
でも、僕もそう思う。
たぶん、僕の寿命はもう近い。
モーターの音も、少し大きくなった。
首を振るたび、体も少し重たい。
それでも、最後まで風を送りたい。
家族を包むような優しい風を。
夫婦喧嘩をした夜も。
お兄ちゃんが笑った日も。
タロウが気持ちよさそうに眠る昼も。
妹が生まれた日も。
全部、僕の首振りの先にあった。
僕は、夏にしか出番はない。
押し入れで眠っている季節の方が長い。
それでも、
毎年またここへ戻ってきて、
この家族を見守れる夏が好きだ。
この家に来られて、本当によかった。




君の風を兄弟で取り合っていた頃が懐かしい!
扇風機の気持ちになって考えて、じっくりと読みました♪
なんか、しみじみしました〜💕