夢中になれる時間。
小学校四年生の男の子の話。
今日は、私が手伝っている
書道教室に通う一人の男の子の話をしたい。
彼は小学四年生。
教室に来るようになって、まだ半年ほど。
初めてお母さんと一緒に来た日、
お母さんは少し緊張した表情で話してくれた。
「この子は、発達障害なんです」
「どこの習い事でも問題を起こして、
断られ続けてしまって…。」
少し申し訳なさそうに、
それでも勇気を出して打ち明けてくれた。
そして最後に、こう言った。
「でも、この子、字をずっと書くんです」
うちの師範は、
その言葉に特別驚くこともなく、
「筆で書いてみる?」
と、ただ一言、その子に伝えた。
男の子は、ひと言
「書く!」
そう言って、
目を輝かせながら初めて筆を握った。
お手本を見つめる目は真剣で、
夢中になって、一文字、一文字を書いていた。
弟子の私ですら、
「この子は、すごいかもしれない」
そう思った。
師範は、その子の作品を見ながら、
「うちで書道、やってみる?」
と聞いた。
すると彼は、
「やりたい!こんな字、書いてみたい!」
満面の笑みだった。
その時の、あの目の輝きは
これから先もずっと忘れられないと思う。
師範は続けた。
「分かった。
ただ、ここには他のお友達もいる。
もし、お友達を困らせるようなことがあったら、
先生としてあなたを注意しないといけない。
それは大丈夫?」
彼は頷いた。
「でもね。
大きな声を出したくなったり、
体を動かしたくなったりしたら、
隣に別のお部屋もある。
その時は先生たちに教えて。
そこで落ち着けばいい。約束できる?」
「約束する!」
その翌週から、彼は教室に通い始めた。
彼は、とにかく字を書くことに没頭する。
安易に言う言葉ではないのかもしれない。
でも私は、彼の字を見るたびに思う。
この子には、書の神様がついているかもしれない。と
筆を持っている時間だけは、
彼が、誰よりも自然に呼吸をしているように見える。
そこには、
もう「発達障害」という言葉はない。
周りの目を気にすることもなく、
「ちゃんとしなさい」と言われることもなく、
誰にも迷惑をかけることなく、
ただ、自分の好きなものに夢中になっている。
その時間は、
何かと戦っているようには見えなかった。
翌月から彼は、週に四回、
通常の倍の時間教室へ通うようになった。
この半年で、大人でも難しい
思わず見入ってしまうような字を書く。
人にはきっと、
呼吸ができる場所が必要だ。
誰かに認められる場所ではなく、
誰かより上手になる場所でもなく、
「ここに、いたい」
そう思える場所。
書道教室は、
彼にとって、そんな場所なのかもしれない。
もちろん、
その子もまだ小学四年生。
やらないといけないこと、
学ばないといけないこと、
たくさんあると思う。
これから先、
きっとたくさんのことを経験していくのだと思う。
ただ、いつか大人になった時、
自分を信じてくれた人がいたこと。
居場所を作ってくれた家族がいたこと。
そのことを、忘れないでいてくれたら嬉しい。
私は、
自分の書道教室を持つために修行中だ。
尊敬する師範のように、
生徒一人ひとりと向き合える、
そんな先生になりたい。
このことがきっかけに
私にも一本の筋が通った気がする。
書道教室。
なんでも電子化が進むこの時代には
逆行しているのかもしれない。
それでも私は、
この場所を大切にしていきたい。
字を書きながら、
呼吸ができる子がいる。
わたし自身も、その一人だ。
「ここに、いたい」
そう思える時間がある。
そんな場所を、作っていきたい。



うちは長男がボーダーラインだったので、いろいろとやりました。高校3年生で不登校になり、双極性障害の診断がつくも、いろんな人たちのサポートもあり、大学へ行き、大手スーパーで問題なくバイトとバンドとゲームに明け暮れています。
後から考えれば、他愛もないことですが、当事者(親)は必死に抗います。大切なのは、他の大人の目。
ちなみさんの一言で、その子どもの人生は好転したんだと思います。素敵なお仕事💕
師範の先生の、この子が夢中になれるためのお約束や声かけが、本当に素敵ですね。